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316 和太鼓奏者になるまで(その3)当日

和太鼓奏者 坂牧颯人(第3話)

 
ふと気づくと、部屋は真っ暗。でもよく視えました。
ぐちゃぐちゃになった部屋、
倒れてきたテレビとテレビ台の下敷きになってる長男、
本棚から落ちてきた本で埋もれてる次男。
やけに土臭い空気。
なんとなくガス臭かったのも覚えています。

僕はというと、もたれていたタンスの上に置いてあったプラスチックの
衣装ケースが頭に当たって、本震がきている間、気を失っていました。
ケガはタンコブ程度でなんともなかったんですが、
目覚める前の日常と地震後の異様な空気とのギャップでとても気分が悪かったです。

何度目かの余震を経て、下の階から怒鳴り声が聞こえました。
誰が何を言ってたかなんて覚えていません。
3人とも受け止めきれない何かに押し潰されない様に必死でしたから。
でもその声で動かなきゃいけないと揺れる中、
兄二人が僕を挟んで抱える形で肩を組んで階段を下り外に出ました。

あたりは真っ暗でした。外灯も消え、どこの家も真っ暗。
ちょこちょこ動く懐中電灯や車の光だけでした。
玄関につないでたルクは地震の拍子に鎖が外れた様でしたが、外で待ってました。
父の車がバンだったので席をフラットにして7人と1匹全員で乗り込みました。

みんな空腹と寒さ、続く余震にビクビクしながら固まってましたが、
父と母が真っ暗な傾いた家に米と毛布を取りに行きました。
幸いご飯は炊いてありましたので、おにぎりにして食べました。
父がラジオで情報を集めている片手間にいつの間にか寝ていました。

工場の横スライドのシャッター。
いつもは家にいて、閉める音が聞こえると
両親が仕事を終え家に帰ってくる合図でウキウキしていたのに、
余震で無造作にぶつかり合うシャッターの音が不気味で怖くて仕方なかったです。

和太鼓奏者 坂牧颯人(第3話)