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127 避難所生活であぶり出された日常生活の不安

公立大学法人長岡造形大学副理事長 河村正美(第3話)(前長岡市危機管理防災課長):

 

中越地震の特徴の一つに、発災からかなりの期間が経過しても
避難所に留まる市民(特に高齢者)が多かった点があげられる。
その要因の一つとして、日常生活に不安を抱えながら暮らしている高齢者が、
実は避難所生活ではその不安がかなり解消されていたという一面があったからだ。

近くに市営住宅が何棟もある市立東中学校には、高齢者が多く避難してきた。
急遽、臨時避難所として開設にあたった私は、そのまま責任者として従事した。
余震が少なくなるにつれて、避難者は自宅に戻り始めた。
だが、日常生活に戻ることに大きな“ためらい”がある人たちもいた。
足が悪い中で、上り下りしなければならない5階建ての団地。
家具や食器などが散乱し、どこから手をつけていいのやら途方に暮れてしまう室内。
一人であるいは夫婦二人だけで余震におびえる孤独で不安な日々…

避難所では、周りの人たちと不安を共有していた。笑い声が出るひとときもあった。
顔なじみとなった避難所職員は、ノートを見ながら薬服用の確認をしてくれた…
学校の再開のことなども考えると、そろそろ帰らなければと思いながらも、
避難所が閉鎖になるまではつい居続けてしまうと話してくれる人たちがいた。

このため、残っている避難者と避難所職員との井戸端会議を連日行った。
・同じ市営住宅に住むオピニオンリーダー格の人から先に自宅に戻ってもらい、
 余震が来た時の様子などを避難所に残る人たちに報告してもらうこととした。
・自宅の部屋の片づけを手伝ってくれるボランティアを手配することとした。
・避難所での人間関係が帰宅後も続く工夫を話し合い、やってみることとした…

避難所での経験は、日ごろの人と人とのつながりを取り戻すための力となった。

【執筆】
 公立大学法人長岡造形大学副理事長 河村正美(第3話)  (前長岡市危機管理防災課長)