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104 やまのみやげ

大阪大学人間科学部3年 共生行動論研究室 松本海璃 :

 

私が新潟県中越大震災20年プロジェクトの一環として、
木沢でヒアリングを行っていた際に、90歳の女性から聞いた話である。

彼女が生まれるよりもさらに昔の木沢では、
父親が山仕事に行くときに母親が弁当を作っていた。
その弁当の量は、とても1人で食べ切れられるような量ではなかった。
しかも中身は白米しかない。

しかし、父親は昼時になって弁当を開いてもそのことに驚きはしない。
自分で食べられるだけの量を食べる。
するとちょうどお腹がいっぱいになるところで、白米の中から魚が出てくるのである。
父親はそれを食べるのではなく、あえて残して家へ持って帰る。
そして子どもたちにやまのみやげだと言い、残った弁当を渡すのである。

当時はおやつなどなかったから、子どもたちは大喜びでそれらを分け合って食べる。
母親は子どもたちを喜ばせるためにわざと多く作り、
父親もそれを分かっているからわざと残すのである。

こうした昔からの優しい心が引き継がれて、
いつ行っても暖かく迎えてくださる今の木沢があるのだと感じた。

【執筆】
 大阪大学人間科学部3年 共生行動論研究室 松本海璃