· 

065 第3話 自衛隊 魚野川の湯(その1)

ようやくたどり着いた川口町、

近所のスーパーは倒壊し、幼なじみの家は2階の床が抜け柱だけで立っていた、

実家は隣の大きな家の倒壊に巻き込まれかなり傾いていた。

 

「ここに居てもできることはないから、早く帰れ。俺たちはなんとかなる。」

と父に言われた。持ってきたわずかな水と食料を渡し引き上げることにした。

 

長岡に向かう途中、妙見の対岸を通過。

空中を舞う幾つもののヘリコプター、崩れ落ちた大きな岩のがれきの間に

オレンジ色の作業服がいくつか見えた。

後に、2歳の男児が土砂の中から救出された瞬間だった事を知る。

子を持つ親として母の無念を想う。

奇跡的というが冷たく暗い岩の闇で子を想う母に涙を禁じ得ない。

 

翌日、東京に戻る支援部隊に合流してお昼前に当時の勤務地である新宿に着いた。

温かいものが食べたくてラーメン屋でラーメンを食べた。

 

お昼のニュースで中越地震の様子が流れる。

「俺、今日ここから帰ってきたんだよ」と一言、「あらぁ~大変だったでしょ」と一言、

この後に続く大きな災害の始まりに位置する中越地震のころの民意は

まだ幼く遠いところの出来事だった。

 

家に帰ると、当時大きな病院の看護師だった妻が何とかして自分も

医療支援部隊に潜り込めないものかと画策奮闘していたが、願いは叶わなかった。

「私も小千谷にも川口にも行きたい」と何度もせがまれた。

子供たちは小学生、交通手段が定まらないうちは無理を押しての帰省はリスクが大き過ぎた。

(その2へ続く:明日配信)

 

【執筆】
東川口町会 庶務 上村光一(第4話)